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石焼き芋の移動販売を見て、買えないやつは何をやってもダメだ。

「石焼き芋~♪焼き芋♪美味しいお芋だよ♪」

軽トラックから楽しそうな音楽が流れている。石焼き芋の移動販売だ。ああ、美味しそうだな。と思う。

子どもの頃は金額がわからない石焼き芋の移動販売なんて買うことができなかった。今考えると、スーパーやコンビニや屋台で売っている石焼き芋の購入経験はあっても、移動販売の石焼き芋の購入経験はない。こんなのおかしい。

私はこんなに石焼き芋が好きなのに…。

反対側の車線をゆっくりと石焼き芋のメロディーが流れていく。石焼き芋を載せて流れていく。

食べたいな…でも昨日は焼き芋を2個も食べてしまったし、ダイエットを開始してから3kgも太ってしまったし、我慢したほうがいいよな…。と自分を納得させた。

それから石焼き芋のことが頭から離れない。あのトラックに積んでいた石焼き芋はどんな味がしたんだろう。値段はいくらなんだろう。軽トラに乗っている人はどんな顔なんだろう。石焼き芋の包み紙は新聞紙なのかな。どんなものなんだろう。石焼き芋の軽トラの近くはやっぱりいい匂いがするのかな。色んな事を想像してしまう。

私が小さい頃に母は石焼き芋の移動販売を見るたびにこんな思い出話をしてくれた。

「昔ね、お父さんとね、石焼き芋を売りにきたらね、一緒に買いに行って牛乳と一緒に食べたんだよ。それが美味しかったんだよ」

今思うと、小さい頃はよくふかし芋がおやつで出ていた。単に家に金がなかっただけかもしれないが、なんか今になって色々芋に関する思い出が蘇ってくる。

大学生で一人暮らしをした時も、無性にスイートポテトが食べたくなって、自分で芋を買ってきて作ってみたりした。

私はこんなに芋のことが好きなのに、3kg太ったとか細かいことを気にして移動販売の石焼き芋をスルーしてしまった。次にいつ出会えるかわからない、そんな素敵な石焼き芋の移動販売をスルーしてしまった。

嗚呼、悔しい。

なんか人生も結局そんな感じなんじゃないかなって思う。

自分にとって大事なものが何かはわからないけど、常にそこにいるとは限らない。

石焼き芋の移動販売みたいにす~っと目の前を通り過ぎてしまうんだ。

そこで勇気をもって一歩を踏み出せるか、一歩を踏み出すことができないか、こういう小さな一歩が人生単位で見たらめっちゃでかい差になるんじゃないか。

次は絶対に石焼き芋の移動販売を見たら買う。PayPayに対応していないかもしれないから現金も持っておかなければいけない。準備をしておかないといけない。

何度も書くが、私は今年で30歳になってしまう。

もういい大人のはずなのに、大好きな石焼き芋の1つも買う決断ができなかったという文章を実家の子供部屋から書いている。自分が思い描いていた30歳とだいぶ違う。もうそんなことはどうでもいい。どうでもいいんだ。

今は軽トラに乗っている石焼き芋が、どうしても食べたい。

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この記事を書いた人

一生懸命生きています。

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